有名な男性書道家にはどんな人がいるでしょうか。歴史上の書道家から、現代の書道家の活動まで、また書道経験のある芸能人などの話題にも触れた、2019年10月に行った対談です。
書道が得意な芸能人、男性が多い?女性は?
書道を職業としている人は、多くはありません。しかし、意外にも芸能人で書道が得意な方々は少なくないのです。
男性では、つんくさんが6段、哀川翔さんは3段、EXILEのTAKAHIROさんは8段です。芸能人としての表立った活動からはあまり想像できないかもしれませんが、皆さん、結構しっかり書道を習得されています。
女性では、 深田恭子さんが10段、アナウンサーの生野陽さんは、最高段位特待生で指導者クラス、磯野貴理子さんは7段、などなど、多くの方が有段者なのです。
一樹:芸能人で書道をしている人はいますね。良い刺激をいただくこともあります。
僕の周りでも、最近は女性の書道家の方や趣味で筆を手に取る人が目立つようになりました。自己表現がしやすい時代ですから、皆さんご自身のスタイルで、書の活動がしやすい環境が整っているように感じています。
男性で歴史的に活躍した書道家は?
今で言う「書道家」と呼ばれる、書道を専門の職業とする人たちが登場してくるのは、江戸時代の後期以降です。
その時代時代で活躍した書道家が「三筆」として、後世に語り継がれています。
明治の三筆が日下部鳴鶴・中林梧竹・巌谷一六です。この方々が書道の歴史を作ってきたというのが、正統的な流れとしてありますね。
一樹:僕自身、実のところ、いわゆる正統的な歴史をベースにした書道の教育を受けているわけではなく、自己流になります。ライフワーク的に「言葉を描く活動をする事になり、地道に続けていたら現在に至る」みたいなところがあります。
最近、一樹さんの作品を見ると、不動明王とか、歴史上の仏教を背景にしたモチーフが登場してくるのですが、このあたりは何か意識をされてらっしゃるんでしょうか。
一樹:何か特定の宗教などに属している訳ではありませんが、描きたいと自分の中から湧き上がったものが、たまたまお地蔵様や神仏画だった…というだけなんです。
そうだったんですね。自分の作品を書き続けたところに、このような仏教的なモチーフ、人々に救いや癒しをもたらすお地蔵様や仏様、という日本人の原初的なイメージが表れてきたというところが興味深いですね。
現代の男性書道家の活動・昔との違い
日本の正統的な書道の歴史の大きな流れがあるのですが、現代の書の世界は、もっと多様化しています。自分の作品を突き詰めていったら、世の中に認められて、結果的に書の世界を世に広めるようになった書道家達がいます。
相田みつをさんが書道家や、世の中に与えた影響
私が若いころ、一樹さんのようなスタイルの作品を見ていたら、相田みつをさんを思い浮かべていたと思います。相田さんがお亡くなりになったのが1991年、ちょうど自分が10~20代の頃です。今では「いのちの詩人」と呼ばれている相田さんですが、実はかなり苦労していて、不遇の期間が非常に長かったようです。
思い返すと、1980年~90年代、相田さんのような作風がちょっと、人気を集めてたブームみたいな流れがあった気がします。居酒屋の看板とか、「和」の雰囲気を感じられるような内装が求められる時に、相田さんのような筆文字がしっくりくる、みたいな大衆的な空気感がありました。
一樹:僕が、活動を始めたのは、相田さんが亡くなった、もっと後のことですが、今現在でも活動を続けていると皆さんから、相田さんのお名前を度々耳にします。それだけ独自性のある書の文化を切り開いてくださった方だと感じます。
筆文字で詩を書いた作品が、世間的にも受け入れられていった背景には、間違いなく相田さんの存在の影響は大きいと思います。
相田さん自身も書の世界では評価が得られないのに、商業的な評判が高まり始めた、みたいなギャップは感じていたでしょうね。実は、私は相田みつをの作品が、結構好きです。
落ち込んだ時とかに、時々読んで「頑張ろう!」とか思います(笑)。戦前・戦後を生きてきた方からだと思うのですが、作風は軽いのですが、こう、自分の胸に、言葉が「ズシッ」と響く感じがあります。今の若い世代とかも結構好きな人多いんじゃないかなと思うのですが。
一樹:相田さんの存在のお陰で、独自性のある書の世界が表現しやすくなったと僕は感じています。
僕自身は、自分が辛い時や闘病中など、自分を励ます為に10年以上描き続けてきたら、まわりの皆さんが応援してくださるようになりました。相田さんが日々、どのような想いで筆を手にしていたか、お聞きしてみたかったです。
男性書道家としての「人」が見える武田双雲さん
自分の周りの30~40代の人に書道家の名前を聞くと、よく武田双雲さんの名前が返ってきます。作品のインパクトも大きいと思いますが、TVに登場したり、インターネット上でもよく発言しているので、若年層の目にも触れやすいのだと思います。
作品自体も知られていますが、武田双雲の人物だったり、経験だったりがメディア語られていて、多くの人の共感を得ている状況があると思います。
一樹:最近は、ネットで自分の作品を見てもらおうと、積極的に情報発信してる人も多いので、書道家の活動の仕方が、昔とは違ってきているんだろうと感じます。
僕自身も活動中からアメブロでよく作品や日常の様子を発信したり、Facebookで活動の様子を投稿したりしてます。
最初から、意識的であったわけではないのですが、何となく、自分の作品を知ってもらおうと動いていたら、支援して下さる方が増えてきました。作品自体ももちろん大事なのですが「人」が大事なのではないかと思うんです。
最近知ったのですが、武田双雲さんは2年前に発達障害(ADHD)ではないかと公表されました。特に隠すことなく、むしろ自分の特性を受け入れて、活動のエネルギーにしている様子まで見受けれられます。
一樹さんも、結構お子さんとの生活や、これまで自分が経験した苦労をさらけ出してますよね(笑)アメブロの記事は、結構笑いながら読ませてもらっています。「言葉は人」と言いますが、一樹さんの柔和な作風が、生活やお人柄そのものを映し出しているように感じるときがあります。
一樹:自分は割とオープンなスタンスですね(笑)、飾った自分を出しても無理が生じちゃいますから。背伸びした生き方をしていると、きっと今のような作品は生まれてこなかっただろうなと思います。
数年前、重度のパニック障害の発症や、鬱病を経験した時も隠すような事はしませんでした。むしろオープンにした方が楽でしたし、反対にいろんな方が支えてくださり、より活動の幅が広がり、深みも増したように思います。他力本願の方が人生は楽でした(笑)
伊藤一樹さん 独自のスタイルを作ってきた書画家として
一樹さんは作品を見ても活動のスタンス自体を見ても、独自の道を切り開いていらっしゃるなという趣があります。
今年6月に恵那市の観光大使に就任されていて、また一樹さんが10年以上活動されている様子を見て、1人の作家としてのスタンスというか、作家としてのブランドなりが出来上がっているように見えます。
私の周りには、画家だったり、デザイナーだったり、作家個人の力がモノを言う活動をしている知人が多いのですが、彼らを見ていると皆、ネット上なり、リアルな場で発言したり、普段からマメに情報発信しています。2011年から、ずーっとアメブロを更新し続けているのは、個人的には結構すごいなーと思うのです。
「継続は力なり」と言いますが、地道に活動を続けて力を発揮している姿を見て「これから何かしたい」と考えている若い世代で、勇気をもらっている人は多いと思います。
一樹:自分は幼い頃から、書道を習っていたというわけでもなく、初めから才能に恵まれたというわけでもありません。ただ地道に作品を作り続けてきたら、人に恵まれ、皆さんに押し上げていただいたと思っています。そういった意味でも、人とのご縁には本当に感謝しています。